運動会―その1

 運動会の定番と言えば、徒競走だ。だが、その徒競走は子供たちにとっては試練の場だ。普通の体育の授業と違い、多数の親や子供たちの視線にさらされる。同じ小学校なのに、娘と息子とでは参加の方法が異なっていた。

 娘の場合、同じ組の最後にゴールする子供に合わせ、コースの途中からスタートした。娘の列がスタートラインに近づくと、娘は先回りして待ちうけ、「ドン」の合図で一緒に飛び出す訳だが、その場面になると周りの親達の間で、「なんであの子は前に行っているの?」と必ず小さなささやきやざわめきとなって私の耳に届くのである。そして娘が走り出すと、「なんだそうか」という納得の顔になるのが手にとるようにわかった。そして最後には必ず「頑張れ」の応援が沸く。
 必死に走ろうとする娘の姿を見て、毎年、毎年、目頭が熱くなっていたものだ。

 そういえば、ある年の運動会の時、こんな事があった。
 娘がゴールを一着で走り抜けた。二着の子は当然納得いくはずもなく、「途中から走ったのにずるい。一着は自分だ」と先生に抗議したそうである。娘としても懸命に走った結果の初めての一着である。はいそうですかと座を譲るのには惜しい。さりとて途中からのスタートである。ジレンマに陥ったに違いない。順位を決める先生の間でももめたようだった。
 でも、ある一人の先生の粋な計らいで決着した。二人ともに一着になったのである。
(2006.3.22)

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