心を鬼にして

 幼稚園児の息子は顔がぽっちゃりして(体は痩せているけれど)とても愛らしかった。お弁当を作る私の傍らに来て甘え、「デザートはフルーツにしてネ。」などと言っていたものだ。

 その幼稚園での運動会では、先生が各競技をサポートしてくださり、紅白リレーでは相手チームが一周分余分に走り、バランスをとってくださったりした。
 近くの多摩川にお散歩の時などは、園長先生が自転車の荷台に乗せてくださったそうだ。私としては、その好意は嬉しい反面、歩かせて欲しかったと身勝手な思いを抱いたりしたが、他の園児の事を考えると、団体行動の為、望むべくもない事だ。勿論、息子はVIP待遇なので、得意満面だった。

 通園の送り迎えは徒歩で、私と母でかわるがわる行っていたが、大人は自転車を転がして行った。息子はその自転車に乗りたくて、すねたり、泣いたり、ぐずったりした。途中で立ち止まり、、座り込んだりして、自転車に乗れることを期待するのだが、我々は無視し、さっさと置いていってしまう。そうすると、大きな声で「待ってヨ!待ってヨ!」と泣きながら走って(?本人にとっては走っています)くるのである。母はこの涙に弱く、つい乗せてあげようと思ったらしいのだが、私が「絶対ダメ。本人にとっても歩く事がリハビリになるのだから。」と言って許さなかった。
 大きな声で叫び、涙ながらに訴え、必死に走ろうとしている息子が、他人の目にはどう映っていただろうか。薄情な親と思ったかもしれない。でも、たとえ小さな事でも、それがリハビリにつながると思えばこそ、心を鬼にしていたのである。
(2006.3.9)

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