説明できない!

 どうしたの?怪我をしてるの?と聞かれるのは階段を登っている時が圧倒的に多いです。「生まれつき脚が悪いんです」と、よくこう答えていました。"ふつう"の人との違いを最も強く認識できるのが脚だから、それが最もピンとくる答えみたいです。しかしそれは他人だけではなく自分自身もそうでした。

 小学校3年生のときのことです。体育の授業でうんていをやりました。列に並んで順番を待ちます。自分の番になるとまず一本目のバーにぶらさがるのですが、その後が続きません。しばらくぶらさがって断念し、降りてまた最後尾に並びます。それを見ていた担任の先生に「どうしてきちんとやらないの?悪いのは脚だけで、手は関係ないでしょう?」と言われたのです。
 ん?と疑問符が浮かびます。私の体は間違いなく無理だと言っているけれど、確かに脚は使わないからできてもおかしくない…。どうしてうんていができないのか。体を前後に揺らして勢いをつけることができないからか。それには脚の力が必要だ。でも、もしそれができたとしても、片手になったら落っこちる。
 その日、とうとう私は先生に弁明することができませんでした。

 家に帰ると真っ先に母に聞きました。「ねえ、私が悪いのって、脚だけじゃなくて手もだよね?」「そうよ、なんで?」「べつに。」自分の体のことを人に聞くというのもおかしな話ですが、このとき初めて自分の病気が全身性のものだということを認識します。と同時に、「脚が悪い」という表現が誤解を与えるということも悟ります。

 それからは面倒でも「筋肉に障害があって、走れないし、跳べないし、階段が大変だし、重たいものを持ち上げたりぶらさがったりする力もあまりありません」という、より正確な表現を使うようになりました。もちろん相手にもよるし、状況にもよりますが…。

 それにしても、考えてみると、親しい友人にさえ病名を伝えたことはありません。「どうしたの?」「ミオパチーなんです」で、通じる日はきっと来ないでしょうね。もちろん来ない方がよいに決まっています。そんなメジャーな病気になって、患者の数が増えても困りますから。
(2005.9.14)

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