はじめに

 私には二人の子供がいる。一人は、大学院で博士号をとるべく数学を学んでいる。もう一人は、今春大学を卒業し、無事就職。福島県の研究所で働き、初めての一人暮らしを楽しんで(?)いる。

 今日に至るまで、普通の親子と違い、大なり小なり、大変な日々があった。なぜなら、二人とも生まれながらにして先天性ミオパチーセントラルコア病という、耳慣れない病気だったからだ。
 病名が判明するまでの不安と焦り、わかってからのそれまで以上の大きな不安と、子供たちに対する申し訳なさは、常に頭から離れたことがなかった。
 何か事が起こると、病気が原因かしら?とすぐ結びつけて考えてしまう毎日。そんな日々だった。

 幼い時は、自分が盾になり、守ってやることができた。例えば、階段を昇るときは、手を引くことも、抱っこしてやることもできる。でも成長するに従い、そんなことは当然できなくなってくる。そして、二人とも自分が見え、周りが見え、社会が見えるようになってくる。親や友達にも言えない嫌なことも多々あったろうと思う。苦悩にもぶつかったと思う。正直、親である自分でさえ、本当の意味で理解しているとは到底思えない。

 ある時娘に尋ねたことがあった。
 「階段を昇るのが大変ってどういう感じなの?」
と。娘はこう答えた。
 「鉄でできた靴を履いて、走って昇ろうとする感じ」
この一言でなんとなくわかったように感じた。

 昨今、体は元気でも心を病んでいる人が多い。そんな中で、特異な病気に生まれついても、心優しく、理性を持った人間に育ってくれて本当によかったと、今は二人に感謝している。('05.09.22)

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